最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)859号 判決 1960年12月09日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人長谷川勉、同沢荘一、同音喜多賢次の上告理由第一点について。
本訴の訴旨は、発起人組合がその本来の目的に属しない石炭売買取引を行つた事実を主張し、各組合員らに対し商法五一一条一項に基き右売買代金の連帯支払を求めるにあり、商法一九四条一項に基き会社不成立の場合における発起人の責任を追及するものではない。
従つて、右取引後に会社が設立されたか否かは、本訴請求の当否に何ら関係なく、この点に関する原判示にたとえ所論の違法があつても、原判決の結果に影響しない。されば、論旨は採用し難い。
同第二点について。
本訴の訴旨は、論旨第一点に関し説示したとおりであり、従つて、本論旨摘録の原判示もまた、上告人らは中外石炭株式会社設立の目的を以て発起人組合を結成したが、右組合本来の目的でない石炭売買の事業を「中外石炭株式会社」名義で営み、そのため本件売買取引を行つたものと認定した趣旨と解すべきである。
所論はすべて、これと相容れない見解に立脚するものであつて、理由がない。
同第三点について。
原判決は、本件石炭売買取引の実際にあつたのが上告人佐々木隆治、同村山正男、同斉蔵文典、同植木武雄の四名にすぎないことは当事者間に争いのないところであるが、右売買の法律上の効果は本件組合員たる上告人ら七名全員について生じたものと判断した趣旨と解すべきであり、右判断は正当である。何故ならば、組合契約その他により業務執行組合員が定められている場合は格別、そうでないかぎりは、対外的には組合員の過半数において組合を代理する権限を有するものと解するのが相当であるからである。されば、論旨は理由がない。
同第四点について。
所論乙第一三号証の成立は、被上告人が不知を以て争うところであり、原審はこれが真正に成立したことを認めていないのであるから、同号証につき特に判示をしなくても所論の違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、九三条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官河村大助の反対意見があるほか全裁判官一致の意見によるものである。
裁判官河村大助の反対意見は次のとおりである。
本件石炭売買の衝に実際当つたのが、上告人佐々木隆治、同村山正男、同斉藤文典、同植木武雄の四名にすぎないことは、当事者間に争のない事実である(原判決引用にかかる第一審判決事実摘示参照)。ところが、原判決は、上告人らは「共同して」昭和二七年一〇月二九日被上告会社から本件石炭を買受ける契約をし、同月三〇日から翌月一日までの間に右石炭一九八・五五〇トンの引渡を受けたことが認められる旨判示している。若し、右判示が、上告人ら七名共同して取引の衝に当つたと認定した趣旨ならば、当事者間に争いなき事実と異る事実を認定した違法を免れない。また、若し、右判示が、取引の衝に当つたのは前記上告人佐々木隆治ら四名にすぎないが、その法律上の効果は上告人ら組合員全員について生じたと判断した趣旨であるならば、このように判断すべき理由の説示を欠く点において、これまた理由不備の違法があるものといわなければならない。
元来組合の業務執行と組合代理とは区別すべきものであるが、組合契約その他により、特定の組合員に業務執行を委任した場合において、その業務が第三者と法律行為を為す必要あるものについては、特段の定めのない限り右委任に代理権授与の契約をも包含するものと解すべきである。又業務執行者の定めのない場合において組合の常務に属しない或特定の事項を特定の組合員又は第三者に委任しようとする場合は、民法六七〇条一項により組合員の過半数を以て決することを要するものと解すべきであるが、その特定事項が対外関係に属する場合は、別段の定めのない限り右委任に代理権の授与も包含するものと解するを相当とする。しかして同条の「組合員の過半数を以て決す」とは総組合員に決議に参与する機会を与え、その過半数の同意によつて業務執行の方法を決定することを要する趣旨と解すべきであつて、各組合員に対し賛否の意見を表する機会を与えることなく単に組合員の過半数の者において、業務執行を為し得ることを決めたものではない。この理は代理の場合においても同様であつて、多数者が少数者に意見を述べる機会を与えることなくして、総組合員を代理する権限を有するに由ないことも当然の帰結である。然るに多数意見が組合の過半数の者は当然に総組合員を代理して法律行為を為す権限ありと判断し、組合員七名中の四名が組合を代理して為した行為は、他の三名の者が意見表示の機会を与えられたと否とを問わず、これらの者に当然その効力が及ぶものと解せられたことには賛成できない。けだし、常務にあらざる業務につき組合員が予めその計画を知るにおいては、自己の不利益と思う債務負担行為等につき、これを阻止するための手段を講じ、場合によつて組合を脱退する機会もあるに拘らず、かかる機会を与えられることなく、一部の組合員の独断専行による代理行為により、全く関知しない組合員がその責任を負わなければならないような結果は到底認容できないからである。
そうとすれば、本件上告論旨第三点は結局理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)